Lily Chou-Chou

Contribution from Shikano Atsushi

リリイ・シュシュが10年の時を経て再生する。
まずは12月8日に配信シングル“エーテル”をドロップ。ちなみにリリイ・シュシュは1980年の12月8日が生誕日という設定の架空のヒロインだった。そして「エーテル」というテーゼは、映画『リリイ・シュシュのすべて』における大事なテーマで、何度も出てくるキーワードであった。意味合いははっきりとはされていないが、「核(コア)」、「アイデンティティ」、「目には見えないが誰もが感じようとすれば感じられる真理」のようなことを指していたと思われる。
「彼女は音楽を妊娠し、出産する。エーテルという名の羊水が、彼女の音楽をはぐくむ」――これは映画の中に出てくるテロップ文字だが、まさに今回のシングルの「コア」を突く言葉だ。

リリイ・シュシュとは何なのか? それを明確な一言や音楽的な定義だけで語るのは難しい。
まず、2001年時のリリイ・シュシュの構成員は、「小林武史・岩井俊二・Salyu」であった。音楽プロデューサーと映画監督とシンガーによるユニットだったのである。これはつまり映画という羊水が生み出した音楽ユニットであり、同時にSalyuというアーティストの自我を導き出すためのユニットだったのである。ちなみに映画『リリイ・シュシュのすべて』は、市原隼人と蒼井優がデビューを果たした映画でもあり、いろいろな意味で先見の明を果たしている。
再生したリリイ・シュシュは、「小林武史・名越由貴夫・Salyu」によるものと今のところされている。名越は小林と岩井の手掛けた映画『スワロウテイル』での架空のバンドYEN TOWN BANDにも深く関わっていたギタリストであると共に、現在のSalyuのバンドメンバーでもあり、今回のリリイ・シュシュが「音楽主義」的なものであることがここで見受けられるだろう。

小林武史「2年くらい前から、最初は岩井くんとの話の中で、『何かできたらいいな』っていうのがあって。『リリイ・シュシュのすべて』という映画も音楽も、作った当時から非常にダークなものだったし、興行成績だとかCDの売り上げがめちゃくちゃいいとかいうわけじゃなかったわけだけど、あの頃から『10年ぐらい経ってから響くものだ』っていう話をしていたんだよね。で、サントラの『呼吸』っていうアルバムの評判もずーっとよくて、Salyuの周りでも、Salyuとは違うチャンネルとしてリリイ・シュシュが好きだっていう子もいたりしたしたんですよ。彼女自身も武道館終わりぐらいで、『いつかリリイをやりたい』っていうところで日本の音楽シーンの『チャンネルB』を担っているからで。それってつまり、ポップの影そのものを音にするってことだと思うんですよ。だからこのかなりオルタナティヴなロック空間は、もしかしたら今後ap bankとかの活動ともリンクしていくかもしれないし、SalyuはSalyuとしてリンクしていけばいいし……いずれはそういう野望もあります」

腐ったあとで 浄化していく このライフ
息を潜めて 死んでいるような このスペース
“エーテル”

感覚という名の下に、喜びと怒りは等価であり、哀しみと快楽もまた然りである。リリイ・シュシュの“エーテル”は、ドラマティックなまでに儚い世界観を、痛みすら伴うイメージを描きながら心に響かせる。明らかに10年前とは説得力も表現力も違う奔放なSalyuの歌は、音楽というコアから解き放たれた「夜の空=宇宙」そのもののようだ。小林と名越が構築する音像は、永らく流れが止まっていた水面を最初は静かに、やがて激しく叩く衝動そのものだ。リリイ・シュシュの再生は、ポップミュージックの「深化」を響かせるリアルそのものだ。
12月15日に開催される復活ライヴ以降の予定は未定だが、このプロジェクトに今回は終わりはないと、小林は言う。来る2011年、必ずリリイ・シュシュはこの世界を「歌う」はずだ。

鹿野 淳